2025年7月 ステップ10 細く長く

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はじめに

7月27日(日)に、アーネスト・カーツの著書 『Not-God – A History of Alcoholics Anonymous』の日本語訳『アルコホーリクス・アノニマスの歴史』(以下Not-God)の第2回スタディ・ミーティングを開催しました。

第1回の開催後、「内容がとても難しかった」という感想をいくつかいただきました。実のところ私自身も、話しながら「伝えきれていないのではないか」と不安に感じていました。

振り返ってみると、テキストに忠実に解説しようとするあまり、内容が硬くなり、学校の授業のような一方的な話し方になってしまっていたのだと思います。

しかし、参加者にとって本当に大切なのは「正確な知識」以上に、「それが自分の回復にどう役立つか」です。

第2回では、補足資料を加え、要点に強弱をつけるよう軌道修正を試みましたが、それでも終わってから感じるのは、大事なポイントをうまく話せなかったり、伝えられなかったことの不甲斐なさです。

それでも、参加してくれる人の役に立てるよう、試行錯誤しながら第3回目に向けて準備を進めていこうと思います。

次回の『Not-God』のスタディ・ミーティングは、10月26日(日)21:00~22:30に開催します。

さて、この連載では毎月水曜日のミーティングの内容を報告していきます。

完璧主義の罠

すばらしい回復を一刻も早く手に入れたいとせっかちになる人がたくさんいる。矢も盾もたまらなくなっているのだろう。しかし、私たちの成長のほとんどは、一貫した取り組みをたゆみなく続けることで達成される。短い期間にたくさん全部やってしまうよりは、毎日少しずつ取り組むほうがいい。一気にやってパタッとやめてしまうよりも、少しずつコツコツと仕上げていくほうがずっといいものができる。1

ギャンブラーにありがちな思考のひとつが「一つだめなら全部だめ(オール・オア・ナッシング)」という極端な考え方です。

たとえば私自身も、ギャンブルをしていた頃は、途中でやめることができず、大勝ちか大敗けまで突き進むということばかりでした。ギャンブル以外でも、何かものごとに取り組むときには、完璧にやらないと気が済まない反面、うまくいかないと途中で投げ出してしまうこともよくあります。

しかし、この完璧主義というのは、私たちギャンブラーにとってはとても危険な考え方です。なぜなら、不完全な存在である私たちが完璧を目指すことは、神になろうとするような傲慢さにつながってしまうからです。

12ステップは、私たちの限界を認め、神の導きにゆだねることを土台にしています。だからこそ、最初から完璧にやろうとする発想自体が、このプログラムの精神と逆行してしまうのです。

一貫した取り組みをたゆみなく続けるというのは、12ステップの厳しい面のひとつだといえます。不完全な状態で取り組みを休みなく続けるよりも、多少の努力が必要でも短期間で完全にやってしまいたいと考える人のほうが多いのではないでしょうか。

あるAAメンバーが、12ステップに取り組むということは、中腰の姿勢をとり続けることだと説明していたのを聞いたことがあります。立つでもなく、座るでもなく、中間のつらい姿勢でいなければならない。つまり、すぐに結果や正解を求めるのではなく、手探りのまま霊的な歩みを続けていくことの必要性を強調されていたのだと思います。

また、ミーティングの中では、12ステップは短距離走ではなくマラソンだとたとえてくれたメンバーもいました。

トラブルとの向き合い方が変わる

自分の反応の仕方は自由に変えられる。まったく反応しないという選択をすることもできる。自分に責任をもっているから、もはや犠牲者ではない。私たちは成熟した人間になる。
私たちは、ときには間違いを犯し、トラブルに巻き込まれることもあるだろうが、ステップ10をうまく使いこなせるようになれば、すぐに自分の状態に気づける。2

12ステップを続けていれば、すべてのトラブルが消えると思いたくなります。しかし、現実には、問題が起きない人生はありません。

たとえ神の導きを信じて歩んでいても、私たちは間違えることもあるし、身の回りからトラブルがなくなることはなりません。それは、不完全な人間である以上、避けることはできません。

しかし、起こったことに対する感じ方や反応の仕方は変えることができます。

かつての私たちは、他人のせいにしたり、被害者として振る舞ったりすることが当たり前でしたが、霊的な成長が進むと、自分の責任を積極的に引き受けていけるようになります。

コップの中に水が半分入っているとき、「半分しか入っていない」と考えるか「半分もはいっている」と考えるかで、その後の行動や世界の見え方は大きく変わってきます。

私たちは、トラブルが起きたときには、自分の不完全さに目を向けることによって成長を続けていくのです。

おわりに

ステップ10は、単なる通過点ではなく、「細く長く」続けていく必要があります。

私たちは完璧にはなれませんが、完璧でなくても前に進むことはできます。

次回からは、『回復の「ステップ」-依存症から回復する12ステップ・ガイド』のステップ11を扱います。


  1. ジョー・マキュー、依存症からの回復研究会訳『回復の「ステップ」-依存症から回復する12ステップ・ガイド』(一般社団法人セレニティ・プログラム、2008年)p.136 ↩︎
  2. ジョー前掲(注1)p.137 ↩︎
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