2025年6月 ステップ10 成長を続ける

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はじめに

GAコーナーストーンの新たな取り組みとして、6月29日(日)に、アーネスト・カーツの著書 『Not-God – A History of Alcoholics Anonymous』の日本語訳『アルコホーリクス・アノニマスの歴史』(以下Not-God)を学ぶスタディ・ミーティングを開催しました。

コーナストーンの運営メンバーが熱心に告知してくれ、また、AAメンバーのひいいらぎさんが開催されていた第一部のスタディミーティングを引き継ぐというかたちをとらせてもらったこともあって、約50人の方が参加してくださいました。これは、ちょうど一年前に企画したオンラインでのバック・トゥ・ベーシックス(B2B)の参加者と同じくらいの人数です。Not-Godの第二部を扱い、しかも、GAグループが主催するスタディミーティングに、ビギナー向けで比較的取り組みやすいB2Bに匹敵する人が参加してくださったことは予想外でした。

Not-Godは一般向けの書籍として編集されているとはいえ、もともとは博士論文として研究者向けに書かれたものです。特に、第二部は米国の歴史や宗教思想史など、現代の日本人にはなじみが薄い視点からAAについて考察されていて、また、著者であるカーツの独特の論述の流れなどもあって、一読して理解することは容易ではありません。

このスタディで、すべてを解説しきることはできないと思っています。しかし、参加してくれた人が、Not-Godを読む際の道標になるよう、この本のエッセンスを拙いながらも伝えていきたいと思っています。

いずれ、テキストベースでもまとめられるとよいのですが、内容についてはスタディで使用した資料をホームページで公開しています。月刊コーナーストーンは、これまでどおり定例のミーティングの内容の連載をしていきます。

ステップ10に取り組むタイミング

先月は、ステップ10は一度やって終わりというものではなく、継続して取り組んでいくものであるということを確認しました。今月は、ステップ10に取り組むタイミングについて確認していきましょう。

新しい人たちは、不快な感情に名前を付け、分析し、手放すというこの作業をただちにやることの利点がなかなかわからない。1

多くの人は、ステップ10を一日に一度、一日の終わりに取り組んでいるのではないかと思います。ビッグブックには、ステップ10に取り組むタイミングについての詳しい記載はありませんが、ジョー・マキューは、ステップ10は私たちに問題が起こるたびにすぐに取り組むべきだと述べています。

その理由を説明するために、以下のようなたとえをしています。

詰まった排水管と同じで、最初は髪の毛数本が管の内側に引っかかる。それだけでは特に問題は起きないが、そこに別の小さなゴミが引っかかり出すと、まもなく配水管は詰まってしまう。2

はじめはちょっとした問題であったとしても、また別のちょっとした問題がおきると、それらが絡み合ってどんどん問題が大きくなっていってしまいます。だから、ちょっとした問題が起きたら、それを一日の終わりまで放っておくのではなく、すぐにステップ10を使って対処すべきなのです。

ミーティングでは、日々起こる問題をどのように対処して手放していけばよいかということについて質問がありましたので、私なりに回答したことを記載しておきます。

日々起こる問題というのは、ほとんどが他の人が関わっている事柄であって、自分一人だけの問題というものはあまりないのではないかと思います。そして、たいていの場合、私たちは自分が正しく、相手が間違っていると思っています。また、実際に相手が間違っていることもあるでしょう。

しかし、すべてのことに関して間違うことがない人間は存在するのでしょうか?

実際は、自分も相手も不完全な人間で、たくさんの欠点を抱えています。それにもかかわらず、相手が間違っていることで感情的な問題が起こるということは、自分の不完全さを棚に上げて、相手に対して神のような完全を求めているということになってしまいます。完全な人間というものは存在しないのですから、自分の要求がいかに無理筋なものであるかということが俯瞰的にみれるようになれば、その問題から距離をおけるようになってきます。

これは、あくまでひとつの考え方です。ステップ10に繰り返し取り組んでも日々の問題がなくなるわけではありませんが、その受け止め方や考え方は変わってくるのではないかと思います。

「メンテナンス」の意味

先月の記事に、ステップ10は現状を維持することが目的ではなく、霊的に成長することが目的であるということを書きましたが、この点についてもう少し考えてみたいと思います。

ステップ10は、いわば日々のメンテナンスのステップであり、私たちに本来的に備わっている力との関係を開かれた状態にしておくためのものである。3

『回復の「ステップ」』には、ステップ10はメンテナンスのステップであると記載されており、また、ビッグブックのステップ10の説明に該当する箇所には、「霊的な状態をきちんと維持するという条件で、毎日執行を猶予されているだけなのである。4」と記載されています。

こういったところだけをピックアップすると、やはり霊的な状態というのは維持することが可能であると考えてしまいがちです。

しかし、ジョーは別の本でこうもいっています。

・・・これを固定した、変化のない状況と解釈してはいけない。ステップ10、11、12が「維持する(メンテナンスの)」ステップと呼ばれるのを聞いたことがあるかもしれないが、これは、到達できた状態を維持するという意味ではなく、成長を維持するという意味である。
スピリチュアルな状態を維持するには成長することが求められる。自然界に存在するものはすべて、成長するか、さもなければ消えていく。ソブラエティを維持し、スピリチュアルに成長し続けなければ、私たちの状態は悪くなる。5

成長するためには、私たちは、それぞれが神から与えられた課題に取り組んでいく必要があると考えています。それは、スポンサーとしてスポンシーにステップを手渡すことであったり、ミーティングメイカーとして多くの人が共同体に参加するきっかけを作ることであったり、人やタイミングによって取り組むべき内容は様々かもしれません。

しかし、いずれにしても自分一人だけで完結するものではなく、他の人に働きかける取り組みである必要があるでしょう。

一口にメンテナンスといってもとても奥が深いものです。特にゴールというものが設定されているわけではないので、気が遠くなることもありますが、私たちがやるべきことに取り組んでいきたいものです。

おわりに

今月の連載は、Not-Godのスタディミーティングの準備のため後回しになってしまいましたが、なんとか書くことができました。

これも神から与えられた課題だと思って取り組んでいこうと思います。

これまでどおり、定例のミーティングは毎月第2水曜日の21:00~22:00に開催します。

Not-Godのスタディミーティングは、ひとつの章を扱っている間は毎月開催、ひとつの章に区切りがついたら、準備期間として2ヶ月ほど間をあけてから次の章を扱っていこうと思っています。次回は第七章の続きですので、7月27日(日)21:00~22:30に開催します。


  1. ジョー・マキュー、依存症からの回復研究会訳『回復の「ステップ」-依存症から回復する12ステップ・ガイド』(一般社団法人セレニティ・プログラム、2008年)p.132 ↩︎
  2. ジョー前掲(注1)p.135 ↩︎
  3. ジョー前掲(注1)p.135 ↩︎
  4. AA日本出版局訳「アルコホーリクス・アノニマス」(NPO法人AA日本ゼネラルサービス、2004年)p.123 ↩︎
  5. ジョー・マキュー、依存症からの回復研究会訳「ビッグブックのスポンサーシップ」(一般社団法人セレニティ・プログラム、2007年)p.158 ↩︎
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